最後の「和の料理人」野崎洋光さんを訪ねて――料理の技術だけではない。生き方そのものを学ぶ一日
- 2 日前
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秋から開講する「ホールフードマスターコース」の講師をお願いするため、千葉県にある野崎洋光さんのご自宅を訪ねたタカコナカムラ。ふぐ料理の名店「分とく山」の元総料理長として日本の和食界を牽引し、今なおフリーの料理人として全国を駆け巡る野崎さん。温かくも研ぎ澄まされたご自宅でのもてなし、環境と未来に向き合う「後始末」の哲学、そしてマスターコースで実現する奇跡の「一日まるごと野崎洋光さんの日」への感動と確信をお届けします。
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憧れの料理人・野崎洋光さんを訪ねて千葉へ
8月の猛暑の中、秋から開講する「ホールフードマスターコース」の講師をお願いするため、千葉県にある野崎洋光さんのご自宅を訪ねました。
私にとって、野崎洋光さんは、料理を始めた頃からずっと憧れ続けてきた料理人です。
長年、ふぐ料理の名店「分とく山」の総料理長として、日本を代表する和食をつくり続けてこられました。
オリンピック選手団の食事を担当されたり、海外からの要人のおもてなしをされたり――
その輝かしい経歴を挙げれば、きりがありません。
けれど、私が野崎さんを尊敬している理由は、肩書や実績だけではありません。
料理の味はもちろんのこと、物静かで穏やかなお人柄。
そして何より、料理を人に提供する仕事に携わる者として、ご自身の健康管理を徹底されていること。
「人に食を届ける人間は、まず自分自身を整えていなければならない」
そんな姿勢が、言葉にされなくても伝わってくるのです。
私はこれまで、料理家を目指す者として、そこに何度も背筋を正されてきました。
料理人の庭には、料理人の眼がある
野崎さんのご自宅の周りには、木々が生い茂っています。
庭には、りんごやかぼすの木も植えられていました。
ただ植物を愛でている、というのとは少し違う。
その木々もまた、季節を料理に映し出すための大切な存在なのではないか。
そんなことを感じました。
料理は、皿の上だけで完成するものではない。
器があり、庭があり、季節があり、暮らしがある。
野崎さんのご自宅に伺って、そんな「和食の世界観」を改めて感じました。
「どこにも属さない」という潔い生き方
野崎さんは、今回の “ホールフードマスターコース” の講師を、快く引き受けてくださいました。
現在は「分とく山」を引退され、フリーの料理人として全国を飛び回っておられます。
これほど著名な料理人でありながら、和食や日本文化に関わる多くの団体には所属されていません。
私は思い切って、その理由を伺いました。
すると野崎さんは、いつもの穏やかな口調で、
「どこかに属すると、その団体の意向に従わないといけないですよね。それは、もういいかなぁと思って。自分のやりたいこと、好きなことを、気兼ねなくやっていきたいんですよ」
と話してくださいました。
その言葉が、とても印象に残りました。
野崎さんは、名声のために料理をしているのではない。
自分が好きなこと、伝えたいことを、自分の責任で続けている。 そんな潔さを感じました。
そして、こんな話も。
「ついこの前も、長岡市の農家さんのところで、弁当を作ってきましたよ」
そう言って、動画を見せてくださいました。
そこには、若い農家の皆さんと一緒に、収穫した野菜を使って、おいしそうな弁当を作っている野崎さんの姿がありました。 驚いたのは、その表情です。 とても楽しそうなのです。
一流の料理人が、若い農家の人たちと肩を並べ、収穫した野菜を料理している。
そこには、肩書も、上下関係もありません。 ただ、「好きなことを楽しむ人」がいました。
私は、その姿に野崎さんの生き方を見たような気がしました。
未来への責任。「後始末」というホールフード思想への共感
私は尋ねました。
「野崎さん、これからやりたいことはありますか?」
返ってきた答えは、とてもシンプルでした。
「後始末ですね」
一瞬、意味を測りかねました。
野崎さんは続けました。
「私たちは、ごみもそうだけど、環境に悪いことをたくさんしてきたでしょ。
これからは、その後始末を大人たちはしなくてはいけないと思いますよ」
私は思わず、手をぎゅっと握りました。
「ああ……野崎さんは、ホールフードライフを理解してくださっている」
そう思ったのです。
食べることだけではない。
作ることだけでもない。
その先に何が残るのか。 環境に何を残すのか。
アンド、次の世代に何を手渡すのか。
そこまで考えてこそ、「食をまるごと考える」ということなのだと思いました。
夢のような一刻!
野崎さんの手料理ともてなしの心
マスターコースの打ち合わせも終わり、そろそろ失礼しようとしたときのことです。
野崎さんが、 「お昼、食べていきませんか?」 と。
えっ……? まさか。
野崎さんのご自宅で、野崎さんの手料理をいただけるなんて。
料理をしてきた私にとって、夢のような出来事です。
まず食卓に出されたのは、よく冷えた荏胡麻の冷汁。
荏胡麻と味噌の割合が絶妙で、猛暑でほてった身体をすっとクールダウンしてくれました。 「荏胡麻がとってもおいしい」というと、
「福島の姉が栽培しているんですよ」
だから、市販品とは違うんだーー。
続いて、新潟の冷たいへぎそば。 そこには野崎さん特製の出汁。
なんと、先ほどまで冷凍庫で冷やされて、出汁には絶妙なシャリシャリ感がありました。
おいしい。すごくおいしい。
そして、タカコ、めちゃ、楽しい。
料理そのものの素晴らしさはもちろんですが、食べる人を喜ばせる細やかな心遣いが、随所に感じられ、もう満足感爆発でした。
長年、多くの人に料理を提供してこられた野崎さん。
「人をもてなす」ということが、もう身体の中に染み込んでいるのかもしれません。
道具、器、書斎。
生活そのものに根づく食文化の厚み
食事の後は、厚かましくも「お宅拝見ツアー」をお願いしました。
キッチンはなんと2つ。
ひとつは YouTube の撮影にも使われている背景が障子と外の木々が見える、あのキッチンです。
どちらも無駄がなく、とても機能的。
料理人の台所らしく、「料理をするための道具」がきちんと考えられて配置されています。
そして、何より感動したのが器のコレクション。
漆器、南部鉄瓶、全国各地の焼き物……。
その数と種類の豊かさに、目を見張りました。
書斎には、料理や食文化に関する資料や書籍が所狭しと並んでいます。
「いったい、どれほど勉強されてきたのだろう」 そんなことを考えながら、本棚を眺めていました。
野崎さんの学びは、和食の技術だけにとどまらない。
食、器、文化、歴史、暮らし――。
長い年月をかけて積み重ねてこられた知識の厚みを、ほんの少し垣間見た気がしました。
そして、四角い火鉢や蓄音機、トランジスタラジオ、昭和の懐かしい家電や家具も、さりげなく暮らしの中に置かれていました。
古いものを大切にしながら、新しいものも取り入れていく。
それもまた、野崎さんらしい暮らしなのかもしれません。
ドラマ監修と『野崎洋光のおうちごはん』に込めた想い
現在放映中のドラマでは、野崎さんが料理監修を担当されています。
野崎さんの器も、いくつも撮影に使われているそうです。
北大路魯山人といえば、美食家として、そして陶芸家としても知られる人物。
一方で、強烈な個性を持った、いわば「孤高の人」というイメージもあります。
野崎さんも、魯山人から大きな影響を受けていらっしゃるのかもしれません。
けれど、私が野崎さんに感じるのは、魯山人とはまた違う静かな強さです。
穏やかで、物静か。 声を荒らげることもなく、誰かを否定することもない。
それでも、ご自身の料理と生き方については、決してぶれない。
野崎さんにお会いして、そんなことを感じました。
「野崎洋光のおうちごはん」
その後も、厚かましくメールでやり取りをさせていただいています。
それだけでも、私には信じられないようなことです。
私の中には、和食の料理人というと、どこか「小うるさい」「怖い」というイメージがありました。
でも、野崎さんには、それがまったくありません。
YouTube の「野崎洋光のおうちごはん」では、あのキッチンで娘さんが撮影されています。
そこで紹介されている料理は、奇をてらったものではありません。
基本に戻った、わかりやすい和食。
「これなら今日、作ってみよう」 そう思える料理ばかりです。
私は、そこにも野崎さんの大きな功績があると思っています。
難しいものを難しく見せるのではなく、長年培ってきた技術を、家庭でできる形にして手渡していく。
それは、料理文化を次の世代につなぐ、とても大切な仕事なのではないでしょうか。
2026年11月は丸一日「野崎洋光さんの日」!
マスターコースへの確信
「調理実習だけでは、もったいない」
野崎さんのたくさんの書籍やレシピ、そしてYouTubeを拝見しているうちに、私はある思いが強していきました。
今回のマスターコースで、野崎さんに「調理実習だけ」をお願いするのは、あまりにもったいない。
野崎さんのお話、もっと聞きたい。 もっと知りたい。
そして、私だけが聞くのではもったいない。
「皆さんにも聞いてほしい」 いや、 「皆さんに聞かせたい」
そんな気持ちになってしまったのです。
野崎さんが「分とく山」の料理長になるまでの道のりも、決して順風満帆だったわけではありません。
料理人として、さまざまな苦労や試練を経験し、それを一つひとつ、ご自身の努力で乗り越えてこられた。 だからこそ、今の野崎洋光さんがある。 私はそう感じています。
そして、またしても厚かましくお願いしてしまいました。
「午後の講義も、お願いできませんか?」 と。
こうして、11月のホールフードマスターコースは、 一日まるごと、野崎洋光さんの日 になりました。
午前は、野崎さんの料理を実際に学ぶ。
そして午後は、料理人として、ひとりの人間として、これまで何を考え、何を学び、何を大切にして歩いてこられたのか。 そんなお話を伺います。
こんな贅沢な一日は、そうそうつくれるものではありません。
料理の技術だけではない。
日本の食文化。 季節を感じる心。 器と料理の関係。
人をもてなすということ。
環境への責任。
そして、料理人としてどう生きるのか。
野崎洋光さんが長い年月をかけて積み重ねてこられたものを、次の世代へ手渡していただく一日です。
私は今回のマスターコースを、自信を持っておすすめしたいと思っています。
なぜなら、これは単なる「料理教室」ではないからです。
一人の偉大な料理人の技術と哲学、生き方に触れることができる、一生に一度の学びになるかもしれない。 野崎洋光さんにお会いして、私はそう確信しました。
そして、このご縁をいただけたことを、心からありがたく思っています。
野崎さん、 長年、私たちに日本の料理の美しさを伝え続けてくださって、本当にありがとうございます。
これからも、野崎さんが「好きなこと」を自由に楽しみながら、次の世代へたくさんのものを手渡していかれることを、心から願っています。
2026年11月。
私たちも、その一人になれることを楽しみにしています。
きっと、生涯の宝物になる一日です。
※本記事は「note」より要約抜粋しています。
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